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Osaka Doyu-Kai

vol.20

番外編「マイナンバーのメリット・デメリット」

~あなたの会社は マイナンバーのデメリットを深く考えていますか~

Profile

田城譲法律事務所 所長・弁護士

田城 譲

 

マイナンバー制度が動き出し、既にマイナンバーカードを手にした方も多いと思います。
税金や公的給付の面で公平を図り、行政の効率的な運用を可能にし、よって国民にとっても便利な制度だということです。
税収に関してほとんど全てを把握されている大部分の国民にとって、税収確保の公平公正さに対する不信感は強いものがあります。行政サービスや福祉の実施についても同様の不満が少なくないと思います。マイナンバー制度によって、この点への改善が期待され、公平な税務の実現によって税収も増えることが期待されますし、不正な行政サービスの受給も減る可能性があります。

また、国民の重要事項がデータベース化されるわけですから、確かに行政サービスの効率化が図られる面も少なくなく、無駄を省けることによって生み出された余裕が、より国民寄りの行政サービスの実現に寄与するかもしれません。そして、国民にとってもマイナンバーカードによって行政サービスを受ける手続きが簡略化され、コンビニで印鑑証明などを取得することができるというように、便利になる側面があるとされます。
さて、このようなあらゆる国民の情報が詰め込まれたデータバンクにつながるマイナンバーあるいはマイナンバーカードを、我々はどう管理すればいいのでしょうか。
マイナンバーによってデータバンクに直接アクセスすることができるわけではありませんが、直接アクセスする立場にある人なら中を見ることができるという点は重要です。印鑑証明の取得などさまざまな行政サービスを簡単に受けることができるのですから、マイナンバーカードの使用が恐ろしい結果を生む可能性は高いですし、その他悪用や誤った使用は考え出せばきりがありません。ということは、利便性を重視し常に携帯するか、紛失盗難をおそれてどのようにして保管するかに悩むかを、個人の自己責任の問題に帰するとするのはあまりに安易な結論です。悪用、紛失盗難、不正アクセスの問題は常に存在するのであり、これだけ重要な制度のマイナス部分を自己責任に帰するのは大問題に発展する可能性がありますし、保険などの制度の普及を検討し、マイナンバーが使用される各領域の規制法によってその点の保護が図られるべきです。

 

同友会会員へのメッセージ

私は、個人的にはとんでもない制度が性急にできあがったものだと思っています。確かに公平を図れるという面はありますが、行政による情報の集約化は思った以上に進んでおり、銀行の情報のみならず、私たちの取引先情報も収集が進んでいます。経営が悪化し、何かの時には一気に強制執行ができる範囲を確実に補足しているといっても過言ではありません。それに、マイナンバーそのもの、あるいはカードの保管をどうするかというのは大問題です。またあらゆる先進技術を使っても悪用するのは人間ですから、防ぎきることができないことも、コンピューター化が進んだこの四半世紀で明らかとなっています。最終的には、人的な信頼関係で守るべきものを守るということになるのは、全て同じところに帰結するという真実なのだとつくづく思います。
私自身、マイナンバーの保管をいかに図るべきか悩むばかりです。しかし、マイナンバーカードに合わせて行政手続きが進められるようになると、カード無しでは手続きが渋滞して不利益を受ける場面が増えることが予想され、なし崩し的にカード利用を強いられることになるのが必然と思われます。そうなれば、カードの携帯が当たり前になり、ひいては予想もしていなかったトラブルが続出することになることを心配しています。今後、カード利用がすすむにつれ、利用方法、トラブル、その他あらゆる場面について情報交換の必要性が高まるでしょうし、同友会としての取り組みも必要と思われます。

 

「メリット」

我々中小企業家にとっては、直接的なメリットはないように思います。こうしてマイナンバー制度による影響を考える機会を与えられたことがメリットでしょうか。

 

「デメリット」

全てが合理的な素晴らしい制度のように見えますが、はたして本当にそうなのでしょうか。 この仕組みは、国民のあらゆる財産関係の補足を可能にするものであり、行政にとっての最小限の必要性以上の財産的な情報の集中をはかることができるもので、一切の経済的な自由を許さないことに繋がります。
マイナンバー制度に関わる全体のシステム化が着実に進められるなら案外短期間で完成に至るかもしれませんが、これは憲法29条に定める財産権という基本的な権利を損なうおそれがあります。経済活動で生じるあらゆる取引を把握することになるのですから、取引上生じるさまざまな情報を集積することもできますし、それによって経済活動自体が制約 される可能性もあります。
経済活動に不可欠な労働関係において、全てのグレーゾーンが排除されて、特に中小企業のより弱い部分が成り立たなくなることもあり得るでしょう。
法律ができたり、変わったりすることで消滅する産業が少なくないことは、歴史的な事実ですから。

 

「取材を終えて」

弊社では、社内で管理する個人情報が一種類増えることにより、その取得の手順や取扱い方法を決めるなどという事務的なことよりも、はるかに大きな影響を受けています。何事もそうですが、自社にとってどういう影響があるのか、どういう対応策をとればいいのかを考えるために、こうした専門家の視点からの意見、さらに、人となりのわかっている方から生の情報をいただけることはとてもありがたいです。
(取材:情報化・広報部 荒田(写真)北川(文))