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Osaka Doyu-Kai

vol.2

「同友会的黒字企業80%をめざす」

「銅加工に懸ける100年企業の6代目」〜転換と成長の20年「銅加工の榛木金属」へ〜

Profile

中河内ブロック/東大阪第二支部/2004年度入会

榛木金属工業株式会社 代表取締役社長

榛木 孝至

所在地:稲田工場:大阪府東大阪市稲田新町3丁目10番5号
角田工場:大阪府東大阪市角田1丁目10番8号
URL:https://www.hariki-net.co.jp
創業:1916年6月 / 設立:1956年2月 /
資本金:2,250万円 / 年商:12億円(2024年度) /
社員数:36名
事業内容:蓄電池、整流器、電機設備部品全般の製造/
事務用機器、電気機器部品の製造/
自動車部品、自転車部品の製造/住宅設備部品の製造/
釣り、レジャー部品製造

わたしたちは 互いに感謝し、啓発し、みんなの輝く未来の為に挑戦します
わたしたちは お客様から「ありがとう」と言って頂ける優れた製品を作ります
わたしたちは ものづくりのすばらしさを伝え 社会に貢献します

転換と成長の20年「銅加工の榛木金属」へ

 榛木金属工業は1916年創業、今年で109年を数える老舗の金属加工メーカーである。創業当初はネジの製造を手掛け「榛木螺旋製作所」の名でスタートした。社名にある「螺旋」は、まさにネジを表す。その歴史のなかで、日本で初めて国産の乾電池が製造された翌年からある大手電池メーカーとの取引が始まり、それが現在にいたるまでなんと100年以上の関係が続いている。これが同社の一つの礎となっている。2025年2月、その100年企業の6代目に就任した榛木孝至さんにお話を聞いた。

 現在の同社の主力製品は、電池に用いる銅製品の加工である。転機が訪れたのは2004年、業界全体が不況に陥った時期である。それまでは金属加工全般に対応する、いわゆる何でも屋的な営業スタイルを取っていたが、不況下で生き残るためには差別化が不可欠だと判断した。SWOT分析の結果、自分たちは強みと認識していなかった銅の加工というニッチな技術が、実は強みであったことに気づいた。以後「銅加工の榛木金属」と明確な打ち出しを行い、その結果ウェブサイトなどを経由して全国から引き合いが来るようになった。まずは銅の加工で引き合いがあるが、その後に他の加工も依頼されるという。間口を絞ったからこその成果が出ている。この方針転換の背景には、当時4億円まで落ち込んだ売上の回復が急務であったことがある。経営再建の糸口を求めて榛木さんは2004年に同友会へ入会。その後、理念経営や3S活動が始まる土台を築くこととなった。

 榛木さんは1998年に榛木金属工業に入社、2008年には常務取締役となり、そして2025年に6代目として社長に就任した。前社長であるお兄さんと兄弟ふたりで経営を担ってきたため、古くから同社を知る人は「榛木金属は社長が二人いるような会社」と語るという。兄弟の年齢が近かったため、榛木さんは自身が社長をすることはないだろうと考えていた。しかし、予想に反して昨年10月、突然社長交代の打診があった。多少の戸惑いはあったものの、長きにわたり自身も経営者としての自覚を持ち、同友会で学んできた。「社長になっても何も変わらない」という姿勢を崩していない。

 

 

現場を変え、社員の誇りを育む―3Sと人事制度による再生

 榛木金属工業が経営改善の糸口を見出したのは、社内改革の実行に踏み切った2006年前後である。当時、社内を見渡してみると非常に不良率が高かった。それが影響し納期遅れも頻発。顧客に自社と取引する理由を聞いてみると、返ってきた答えは「安いから」だった。これが当時、営業も担当していた榛木さんに非常に強い危機感を与えた。そこから取り組んだのは、同じく同友会の会員企業から学んだ3S活動だった。しかし、当初は社内からの反発の声も少なからずあった。

 転換点は、赤字のなか迎えた創業90周年。利益が出ないなか、節目の年とはいえ記念式典など開けない。代わりに社員の家族を工場に招く見学会を開催することにした。自分の使う機械、自分のつくる製品を、自らの言葉で家族に説明する。そのために職場を整える必要性が生まれ、3S活動が急速に進んだ。結果、不良率は減少し、生産性は大幅に改善、納期遅れも解消された。こうした現場の変化が顧客の目にも見えるようになり「何か変わった?」という反応とともに、ファンが増えていった。2005年には4.8億円まで落ち込んでいた売上が、翌年には6億円まで回復。その後も堅調に業績を伸ばし続けている。成功の鍵は、3S活動を上意下達の命令ではなく「家族に誇れる職場づくり」という内発的動機に基づく活動にできた点にある。この家族見学会には、現役社員の家族だけでなく、OBも招いた。長年働いた職場の変化を目の当たりにしたOBの喜びは大きく、現場の士気もさらに高まった。「会社が変わった」と実感できる場面を、社員・家族・OBが共有できた意義は大きい。また、同社の特徴の一つに社員の定着率の高さがある。中には親子や兄弟で勤める社員もおり、長年在籍する者が多い。こうした長年の信頼関係の土壌があるからこそ、方針の転換や新たな取り組みに対しても、組織として一丸となって対応できるのだろう。もう一つの改革が、人材育成と定着のための仕組みづくりである。その中核が、2017年に導入した人事評価制度である。この制度では、社員一人ひとりと対話をしながらオーダーメードの教育計画を策定する。本人の成長スピードに応じて柔軟に設計されるため、本人にとっても納得感があり、採用時の安心材料にもなる。評価制度は7段階のステージで構成されており、途中からは「マネージャーコース」と「スペシャリストコース」に分岐する。会社としてはマネージャーになることを期待するが、現場での技術を突き詰めたいという意志を持つ社員には無理に昇進を迫らないスタイルをとっている。この制度は新卒社員だけでなく、既存社員や管理職も対象とし、全社を巻き込んで構築された。制度設計には約1年をかけ、外部のコンサルも活用した。新卒採用を始めた2021年以降、継続して採用してきた若手人材が現場を支えている。

 そこで、社員の成長と会社の成長をどう連動させるか―これは近年の企業経営における大きなテーマでもある。物価が上がり続けるなか、従業員の給与を上げるには会社の成長が不可欠であることを、榛木さんは率直に社員に伝えている。そこで2025年度の方針として「社員の成長と会社の成長を連動させる」を掲げた。その象徴が、新設された角田工場である。投資への慎重論もあるなかで、榛木さんがこだわったのは「社員が来たくなる工場」であること。そして、町工場の古いイメージを払拭し、訪れた顧客に「中小企業でもここまでやるのか」と思わせるようなブランディング。社内外の意識を変えるための戦略的な投資でもある。

 

 

地域と共に歩む企業へ―中期方針と同友会での活動

 2023年に竣工した角田工場は、単なる設備刷新ではない。前職では経理としてのキャリアをもつ榛木さんが、投資額や回収計画を綿密にシミュレーションし、数字に基づいた根拠を示した。当初は全面移転を予定していたが、それでは将来的にすぐ手狭になる。先を見越し、あえて2拠点体制に変更。柔軟な発想で計画を白紙から見直した判断は、長期的視点に基づいた経営判断といえる。

 一方、拠点が分かれたことにより現場把握や評価の難しさも顕在化した。システマチックな人事評価制度も正しく運用されなければ意味がないが、榛木さんが二つの拠点の従業員全員の様子を見て回るわけにはいかない。制度のブラッシュアップを検討する段階にきていると語る。働き方改革も同時進行で進む。残業はゼロにしたが、若手が自主的に学ぶ時間の確保が難しいというジレンマもある。こうした環境の変化に対し、同社ではロボット導入などの自動化による対応をすすめている。人間は創造的な業務に専念し、単純作業は機械に委ねることをめざす。

 2025年度から2030年度までの中期方針は「技術の榛木金属」「自動化」、そして「社員と会社の成長の連動」という三本柱で構成される。これらを策定するにあたり、半年の時間をかけて社員とともに練り上げた。「できるだけぶれない経営がしたい」と語る榛木さん。単年度の方針や計画だけではなく、こうした中・長期的なビジョン策定の力も、代表就任前から磨いてきた。

 同友会では、今期の中河内ブロック長を務める榛木さん。「社長になったことでついに断れなくなりました」と笑うように、満を持しての登場である。掲げた方針は「共存共栄」。会員企業だけでなく、地域の学校や行政との連携を強化し、中小企業だけで完結しない広い視野をもった活動をめざす。実際に中河内ブロックではキャリア教育や産官学連携が進んでおり、これは同ブロックの強みでもある。「会員には積極的に行事参加してほしいし、他ブロックの方もぜひのぞきに来てほしい」と語る。

 中河内地域における課題の一つとして、廃業や売却を検討している事業者の数が非常に多いことが挙げられる。高い技術力をもつ会社も多いが、廃業が増えればサプライチェーンが分断されてしまう。中河内の産業集積を守るには、1社の努力では足りず、地域全体の発展が不可欠となる。榛木さんは、同友会は経営改善や地域の振興に対する特効薬ではないとしながらも、学びと情報共有の場としての価値を強調する。同友会に参加することが、長いスパンでの企業成長の第一歩になると信じている。

 「僕は父のようなカリスマではない。だから仕組みでカバーする」と語る榛木さん。具体的な数字に裏打ちされた投資・回収計画や綿密に設計された制度を粛々とすすめる強かさ(したたかさ)など、きめ細やかな経営スタイルが彼の持ち味だと感じた。その土台には同友会での20年以上に及ぶ学びがあり、それこそがこれからの時代の中小企業経営者に求められる重要な素質ではなかろうか。

(取材:辻・石田・目黒・上田・中西/文:中西/写真:上田)

 

 

同友会 私の楽しみ方

いつものメンバーがあたたかく迎えてくれる支部やブロック。他流試合のような全大阪や全国行事。

疲れていてもいつも元気をもらえるのが同友会の良いところだと思います。

同友会に入っていなければ会うこともなかった人たちとの交流は刺激をもらえますし、自分の成長につながっていると思います。