Profile
大阪南ブロック/さかい浜支部/2013年度入会
藤岡金属工業株式会社 代表取締役
藤岡 時徳
所在地:大阪府堺市堺区石津北町107
設 立:1969年 / 資本金:1,500万円 /
年商:5億円(2024年度) /
社員数:38名(内外国人雇用 26名)
事業内容:金属(鉄)製品製造・加工・切断・プレス・塗装など
鉄にこだわる、現場完結のものがたり
藤岡金属工業は、鉄に特化した一貫生産の会社です。切断・プレス・曲げ・機械加工・溶接・塗装までを社内でつなぎ、建設機械の見える外装部から目立たない機構部まで幅広い部品を届けてきました。素材を絞ることで工程ごとの精度がそろい、判断も速いそうです。たとえば不具合の芽が出そうなら、次工程の担当者がすぐ横で相談できます。納期や品質のリスクを、現場の連携で先回りしてつぶせるのが同社のいちばんの強みです。鉄一本の集中は、派手ではないけれど、積み木の土台を丁寧に固めるような安心感をつくり出します。取引先からの信頼は、その「揺れない土台」に支えられてきました。

半数超が外国籍。多国籍チームを機能させる仕掛け
現在の従業員は38名。そのうち過半が外国籍で、ベトナム出身者が中核、中国やミャンマーの仲間も増えています。言語や文化が違っても現場を回せるのは「国籍ごとのリーダー配置」と「長期育成」を軸にした組織の設計があるから。技能実習を3年で回転させるのではなく、処遇は日本人と同水準をめざし、長く働ける道をつくるようにしています。リーダー候補には管理者教育を重ね、指示の翻訳だけでなく、品質意識や安全文化を「腹落ち」させる役割を担ってもらいます。この積み上げが、コミュニケーションの壁を越える橋になっています。年1回の経営方針発表会も全員参加が原則で、近年は資料の多言語化や同時通訳の導入もすすめ、国籍をまたいだ納得感を育てています。「がんばった分だけ報われる仕組み」を会社が約束し、現場がそれに応える循環が、多国籍チームに推進力を与えています。

若き承継、在庫の山–「つくれば売れる」からの転換
藤岡さんがバトンを受けたのは20代後半。先代の不意の逝去がきっかけでした。当初は「よいものをたくさんつくれば自然と売れる」という職人気質で、現場に没頭。結果、在庫が積み上がり、外部倉庫まで借りる事態になりました。キャッシュは苦しく、数字が会社の足を引っ張るという誰にでも起こりうる「製造業のワナ」でした。そこから抜け出す転機となったのが、大阪府中小企業家同友会で出会った先達からの助言です。「外部倉庫をやめよう」「つくり過ぎをやめよう」。在庫の意味を学び直し、受注の選別を始め、原価と価格の対話を丁寧にやり直していきました。すぐに魔法のような効果が出るわけではありません。それでも、工程・在庫・資金のバランスが徐々に整い「つくる力」が「続ける力」へと変わっていきました。

方針を「見える化」したら、黒字が続いた
以降、同社は経営指針を整備し、毎年の経営方針発表会を継続。目標・担当・期日を明文化して共有することで「言っただけで終わる取り組み」を減らし「やり切る文化」を定着させました。材料高騰の波が来ても、採算が合わない仕事は受けないようにしました。値決めの是正を粘り強くすすめ、ムダな在庫を持たないルールを徹底するなど、地味ですが足腰を強くする一手を積み重ねた結果、黒字が続く体質へと転じています。かつての「とにかくつくる」は、いま「必要なものを、適正価格で、確実に」へと変化しました。経営は数式ではありませんが、数値で自分たちの歩みを照らせるようになったことが、会社の自信につながっています。

これからの伸びしろ–組織づくり、教育、そして50人規模へ
いま藤岡さんが見据える次のステップは、自身が現場からさらに一歩引き「監督業」に専念できる体制をつくることです。目安は従業員50名規模。多国籍の仲間に価値観を伝え、共感を育てるには時間がかかります。だからこそ、リーダー層の二重化、標準作業の見直し、教育の内製化を同時にすすめ「誰かが抜けても止まらない」現場を目標に据えています。2030年ビジョンでは、品質・納期・安全の基準をもう一段引き上げ、過不足ない生産力で安定して応え続ける会社像を掲げました。拡大のための拡大ではなく「小さくても強い」会社へ、工程のムダ取りや段取り改善といった「地味な筋トレ」を続けることで、日々の生産が少しずつ軽く、速く、確かになっていくと話します。
事業承継の考え方–血縁ではなく「社長業ができる人」に
2025年までを視野に入れた事業承継も、同社の大切なテーマです。血縁や国籍、性別にはこだわらず「社長業ができる人」が継げばいいというのが藤岡さんの素直な結論です。求める資格は難しくありません。会社を私物化しないこと、努力の果実を社員にきちんと還元できること、そして掲げた方針を期日までにやり切る胆力があることです。創業家の矜持(きょうじ)を持ちながらも、プロとして経営に徹する覚悟。それが、鉄のように揺るがない同社の芯です。
一方、藤岡さん個人は「人前で話すこともお酒の席も得意ではない」と笑います。それでも同友会の例会や全国行事に足を運び、先達の話に耳を澄ませて学びを「自社語」に翻訳してきました。兵庫・滋賀の経営者たちからは「指針をつくること」と「つくって終わりにせず実行し続けること」の両方を教わったと言います。気に入ったやり方は遠慮なく取り入れ、合わないところは自社流に調整する。背伸びをしない現実的な姿勢が、会社の文化として根づいています。
鉄一本で工程を束ね、国籍を越えて仲間を育て、数字でブレない筋道をつくる。藤岡金属工業株式会社の歩みは、派手なストーリーではありません。けれど、続けるほどに効いてくる「基礎体力」を磨き続ける姿は、とても頼もしいです。現場の汗に意味を与えるのは、明確な方針とやり切る仕組み。2030年、そしてその先の2050年に向けて藤岡金属工業は、静かに、しかし着実に強くなっています。
〈取材:小西・丸山・新家/文:丸山/写真:新家〉
同友会 私の楽しみ方
会歴は長いのですが、なかなか参加できずにおりました。今期、報告をさせていただいたり、ブロック合同例会の実行委員になったことで、改めてよい経営者になるために真摯(しんし)に学べる会であることを実感し、積極的に交流しています。
