Profile
大阪南東ブロック/上町支部 2020年入会
いわした行政書士事務所 代表
岩下 綾子
所在地:大阪府大阪市中央区中寺1丁目 /
URL:https://iwashita-syosi.com
設 立:2016年12月 / 年商:2,500万円(2024年度) /
社員数:6名(うちパート3名)
事業内容:障がい福祉事業者向けの各種行政手続き代行、
特定技能外国人雇用に関わる手続き支援
私たちはお客さまによりそい、温かい世界を実現し、世の中に幸せをお届けします。
私たちは人にやさしく誇りの持てる職場環境を作ります。
私たちは正しいことが評価される社会を目指します。
不安から始まった、経営者としての第一歩
いわした行政書士事務所・岩下綾子さんは、行政書士として独立する以前、派遣社員として働くなかで雇用の不安定さを幾度となく経験してきました。景気の変動や組織再編によって、突然仕事を失ってしまう。努力や能力とは無関係に、働く場が失われる現実に直面するたび「このままでは長く働き続けることができない」という思いが強くなっていったといいます。
そうした経験から岩下さんが選んだのが、資格取得という道でした。行政書士という仕事に特別な憧れがあったわけではなかったといいます。ただ、自らの人生と働く場を自分で支えるための「土台」としての、現実的な選択でした。しかし、資格を取得したからといって、すぐに経営が軌道に乗るわけではありません。実務経験の不足、役所対応や顧客対応での行き違いなど判断に迷う場面の連続でした。独立はしたものの、経営者としての確かな自信を持てないまま、目の前の仕事を必死にこなす日々が続いていました。
転機となったのは、コロナ禍の最中、小規模事業者の支援に関わったことでした。制度や手続きが複雑で「何から手をつけていいかわからない」と、困っている事業者たちがいました。岩下さんは一つひとつの相談に向き合い、申請業務や行政対応を丁寧に支援していきました。そんななかで返ってきたのが「助かりました」「ありがとう」という言葉だったといいます。自分の仕事が誰かの事業を支え、前にすすめている。その実感が、これまで感じていた不安を少しずつ和らげていきました。
顧客の「困りごと」に真正面から向き合うなかで、岩下さんは自社の存在価値に気づいていきます。それは、単に書類を整えるだけのことではなく、事業者が安心して本業に集中できる環境を支えることだったのです。この気づきこそが、経営者としての視点を芽生えさせ、事務所経営を本格的に考えるきっかけとなったといいます。
同友会活動を通じて得た、経営を俯瞰(ふかん)する視点
同友会への入会は2020年末でした。岩下さんにとって、同友会は「経営を学ぶ場に身を置く」という初めての経験でした。当初は活動の意義や、関わり方も十分に理解できず、入会してすぐの紹介者の退会も影響し、例会にも参加しない状態が続きました。仕事と生活に追われるなかで、同友会活動をなかなか始めることができませんでした。
転機となったのは、例会委員として運営に関わるようになってからです。準備や進行に携わるなかで、経営者同士が自社の課題を持ち寄り、率直に意見を交わす場に接することが増え、その価値を実感していきます。単なる成功事例の共有ではなく、失敗や迷いも含めて語り合う討論は、岩下さんにとって新鮮なものだったといいます。例会や討論で繰り返し語られる「人間尊重」「人を生かす経営」という考え方は、個人事業主として目の前の業務にだけ集中していた岩下さんにとって、経営を一段高い視点から捉えるきっかけとなりました。経営とは業務を回すことではなく、人と組織、そして社会との関係性をどう築くかという営みです。その理解が深まるにつれ、自社の課題を俯瞰的に捉え直す視点が養われていきました。
指針セミナーがもたらした、経営の転換点
2021年から受講した経営指針確立・実践セミナー(以下「指針セミナー」)は、岩下さんの経営を根本から変えるきっかけとなりました。それまでの経営判断は「今できるか」「依頼に応えられるか」という目先の基準が中心で、長期的な視点での選択は難しかったといいます。指針セミナーで繰り返し投げかけられたのは「なぜ経営するのか」「何を大切にするのか」という問いでした。仲間や助言者との対話を重ねるなかでつくられた経営理念は「正しいことが評価される社会をめざす」という一文でした。この理念が明確になったことで、岩下さんの中に初めて一貫した判断軸が生まれたといいます。受ける仕事、時間や人をかける領域――それらの基準を、理念に照らして考えるようになったのです。
しかし、理念だけでは経営は回らないことも事実です。次に取り組んだのが、理念を数値に落とし込む作業でした。売上の大小ではなく、利益を起点に業務を見直し、顧客別・業務別に、数字を可視化する管理会計を導入します。自分たちの受注できる仕事量と、その利益を明確にして、生産性をあげることをめざさなければならないことが明確になり、業務の選択と集中がすすんでいきます。この転換は、経営の安定だけでなく成長をも加速させます。安定した顧問契約が積み上がっていき、顧客数は継続的に増加していきます。売上は前期比で大きく伸び、同時に利益率も改善していきます。月次の収益見通しが立つようになったことで、初めて「人を雇う」という選択肢が現実味を帯びてきました。
採用においても、理念が軸となりました。「今すぐ戦力になるか」ではなく「理念を共有し、共に成長できるか」を基準に、人を迎え入れていきます。結果として、社員や外注スタッフを含むチーム体制が整い、受注キャパシティーがさらに拡大していくことになります。代表一人では対応できなかった案件量を受け止められるようになり、顧客数と売上の双方がさらに伸びていきます。理念を掲げ、数値で管理し、人に投資する。その循環が生まれたことで、事務所は「個人が頑張る経営」から「組織で成長する経営」へと、明確に転換しました。岩下さんにとって、指針セミナー受講は単なる学びの場だけではなく、経営を実際に動かす原動力となったのでした。
人が育ち、役割が循環する組織へ
かつてのいわした行政書士事務所は、代表一人の力で成り立つ典型的な個人完結型の事業でした。仕事の質もスピードも、すべては自分次第。ですが、業務量が増えるにつれ「自分が止まれば、事務所も止まる」という構造的な限界が見え始めます。岩下さんは、この状態を持続可能な経営とは捉えませんでした。
転換点となったのは「人を雇うこと」そのものではなく「人が生きる仕組みをつくる」という発想への切り替えでした。できないことは自分で抱え込まず、役割として切り出して任せる。業務を標準化し、情報を共有し、判断基準を明確にすることで、個人の頑張りに依存しない体制づくりをすすめていきました。採用においても重視したのは即戦力ではなく、理念を共有し、共に成長できるかどうかを基準に人を迎え入れていきます。結果として、社員や外注スタッフを含むチーム体制が整い、業務の幅と受注キャパシティーは大きく広がっていきました。代表がすべてを抱え込む経営から、組織として価値を提供する経営へと、事務所は確実に変化しています。
岩下さんが見据えるこれからのビジョンは、単なる規とどまらず、事業者が本業に集中できる環境を整えることが、結果として地域や社会の安定につながると考えています。個業として始まった行政書士事務所は、いまや人が育ち、役割が循環する組織へと進化しています。「人を生かす経営」は理念にとどまらず、日々の仕組みとして根づき始めています。その先にあるのは「働く人一人ひとり模拡大ではありません。障害福祉分野と外国人支援という二つの事業領域を通じて「誰もが安心して働ける場」を、社会に増やしていくことです。制度や手続きの支援にが自分の役割に誇りを持ち、安心して力を発揮できる社会である」と、岩下さんは目を輝かせていました。
〈取材:藤本・石田・堂上/文:石田・堂上/写真:藤本〉
同友会 私の楽しみ方
私は同友会に入会して以来、例会委員として例会づくりに携わってきました。
多くの経営体験報告に伴走するなかで「何を共有すれば明日の経営に生かせるのか」という難しさを感じることもあります。
そのなかで私が同友会の楽しみとして感じているのは、報告の完成度以上に、報告を通して見えてくる、報告者一人ひとりの経営者としての生き方や向き合い方に触れられることです。
また、指針セミナーでは、受講者が自社と自分自身に向き合う姿に立ち会い、経営者としての覚悟や、経営することの重みをあらためて実感しています。
例会や指針セミナーを通じて、同友会が培ってきた英知に触れられることも、私にとって大きな学びであり、楽しみの一つです。