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Osaka Doyu-Kai

vol.5

特集「 今こそ、変化の先に踏み出そう!」

社員が自由に働き、育つ職場を運送業で実現

Profile

大阪北ブロック/阪神支部/2014年度入会

有限会社 中本運送 代表取締役

中本 諭

所在地:大阪府茨木市郡
URL:https://www.nakamoto-unsou.jp
設 立:2003年12月
資本金:1,000万円 / 年 商:4億5,000万円(2022年度) / 従業員数:40名
事業内容:一般貨物運送事業・軽貨物運送事業

経営理念

一、 私達は、愛と信頼を大切にし、安心安全を届けます。
一、 私達は、物流サービス業を通して、人々の暮らしの次代の担い手となります。
一、 私達は、関わるすべての人々が笑顔でいられる企業であり続けます。

現在の中本運送 社員が自由でいられる職場

中本運送は、現在日本国内に五つの拠点(東京、大阪2拠点、岡山、福岡)を持ち、製造業や卸売業、運送下請・孫請けなどの企業を顧客として一般貨物運送業を営んでいます。個々の社員の業務負荷は、当人の要望に合わせて選ぶことができ、時間管理も当人に任されています。滞りなく依頼を完遂できるのであれば、準備にかけた時間は問わず許容されます。2024年問題といわれるように、勤務時間などの課題を抱えるハードな物流業界において、自由とも思えるこのような体制はどうやって成り立ってきたのでしょうか。

承継から社員雇用にいたるまで、信頼できる協力者との歩み

中本運送は、2001年に中本氏の父により軽貨物運送業者として創業されました。創業当時は大手運送会社1社の孫請けとしての業務を、社員は雇用せずに外部委託15名で請け負っていました。中本氏は2年のサラリーマン経験を経て父からの誘いで中本運送へ入社しました。中本氏が32歳のとき、社内で不和が起こる最中、父が急逝。それを受けて承継を決意した中本氏は、父の代からの右腕人材の助力もあり、社長に就任すると同時に法人化へ踏み切りました。そこから10年ほどは宅配サービス需要の高まりが追い風となり、順調に売上を伸ばしていくことになります。当時も、同友会にゲスト参加することはありましたが、強い関心は持てずにいたそうです。

車庫の貨物車

 

急成長の中、次第に人に関する問題が浮上してきます。社内で人材の引き抜きが起こるようになりました。最初は自社からの委託を受けなくなった人へ声を掛けられる程度でしたが、現行で委託している人も他社へ誘うような行為が横行するようになり、中本氏はいつ辞めると言い出されるかと考えてしまい、周囲を信用できなくなってしまいました。 そこで転機となったことが二つありました。一つは、この時期にパートとして入社したMさんの存在でした。落ち込んでいる中本氏とは対照的にいつもニコニコしているMさん。Mさんの笑顔に救われる思いがした中本氏は、自分も笑っていないと、と思い直しました。

いつも笑顔のMさん

 

もう一つの転機は、同友会入会でした。クローズドな小グループの場にて、株式会社珍樹園 代表取締役 加藤氏の人に関する悩みの報告と、周囲の方々が経営課題に対しておのおのの意見をストレートに交わしていたことに、中本氏は強い衝撃を受けました。のちに自身も長年の悩みをその場で報告し「今の状況で会社を続けたいなら正社員雇用してはどうか」という言葉を受け、腑に落ちる思いがありました。結果として「自社から離れたければ離れればよい、ただし自社に残った人は大事にしよう」と思うようになりました。

社員雇用と成長の場づくり

今までとは違う仕事をやりたいと一念発起し、新規採用を始めるも簡単には長続きしませんでした。そこで、まずはMさんを含む身近な2名を正社員にし、新たな分野の仕事を取るための頼もしい戦力となってもらいました。そこからさらに社員募集やトラックの購入、自社ホームページの作成などを実施していきました。試行錯誤する中で、同日2地点への配達案件を皮切りに、新たな顧客からの業務依頼が増えるとともに、倉庫業も手掛けるようになり、さらに、福岡へ進出するきっかけもできました。複数の地点での業務において、直接手を出せず一部を社員に任せざるを得なかった状況が「社員に任せる・社員の自主性を信頼する」という中本氏の考えを強くしたのかもしれません。

さらに、同友会では「社員を雇用してどうしたいのか」という問いを改めてもらいました。会社を社員の成長の場としたいと考えた中本氏は、キャリアコンサルタントの導入を始めます。集合研修で社歴や経営理念についてコンサルタントの助力を得つつ語ったり、1枚1枚直筆のメッセージを添えたクレドカードを作成・配布したりしました。これらは、中本氏が自分の思っていることを言葉にする機会となりました。また、教育に対するフィードバックやコンサルタントによる社員面談は、社員の方々にとって同様に言語化の機会になったのではないでしょうか。

四つの行動指針

将来の展望

直近の課題と思われる時間管理については、管理はしても監視しない方針であり、一般社員に対してはその体制はできつつあるとのことです。気を付けている点は、できないことはできないと会社としての事情を正直に社員へ伝えること。正直に伝えることで相手も正直に応えてくれるという信頼が表れているように思います。

一方で、管理職の時間的負荷が高いことは改善したい点です。業務の性質上「時間が足りなかった」では済まされないので仕方がない面もありますが、管理者には、こういう人になりたいと周囲から思われる人になってほしいという思いから改善のための努力を続けたいとのことでした。

将来については「長男に任せたい」と中本氏。入社6年となる中本氏の長男は役員として経営に携わっています。「ついつい口を出してしまうこともあるが、それを振り切って自分で決断するようになってほしい」と成長を見守りたい気持ちを語っていました。

未来を語る

社員への感謝

これまで頼りにしてきた父の代からの右腕人材が退職予定である旨を中本氏から聞きました。非常につらい出来事のように思いますが、この退職に対して中本氏は、自分の責任であるということと、退職する方への感謝を語ってくれました。どんな状況の退職でも相手を恨むよりは自分のいたらなかった部分を反省した方がよく、退職自体がその人の成長につながるのであれば必ずしも悪いことではないとのこと。また、自社に人生の一部の時間を注いでくれたことには感謝しかないと考えているそうです。このような周囲への感謝の気持ちが、信頼関係やそこから生まれる笑顔にもつながっているように思います。

(取材:山野、松永、香川、岡坂/文:岡坂/写真:山野)

同友会 私の楽しみ方

一時期だけでも同友会運動にグッと集中して参加すると、何でも言い合える仲間ができます。孤独ともいわれる経営者の立場にあって、そんな仲間の存在に大変ありがたみを感じています。どんなかたちでもよいので、一度はどっぷりと参加してみることを皆さんへおすすめします。

また、同友会にはいろいろな立場・考え方の人がいます。いろいろな人からいろいろな言葉をもらうことで私は衝撃を受けてきました。その衝撃から自分はどうしたいかを考えることが自分の糧になっています。

 

取材をしてようやく真の課題が見え、会員の人となりを知る。情報化・広報部員の役得かも。 学びを深める扉を開けてみると、自身の課題とも重なっていく。

社員との信頼関係の深さに脱帽

今回の中本運送訪問にて深く考えさせられたのは、社員との日ごろの関係性の構築の大切さです。中本社長の「仕事を任せきる」という姿勢、そして実直な人柄で、社員との深い信頼関係がはぐくまれていることがインタビュー中の社員との温かい雰囲気からとてもよく伝わりました。

仕事をそこまで任せるのか!と驚くことの連続で、結果としてこういう信頼関係が社員と成り立つことを予見してか、そうでないかは最後までインタビュー中にはわかりかねましたが、冗談で「人を生かす経営」というよりも「人に生かされる経営」と話していたのがまさに言い得て妙だと思いました。

また「自分が学ぶよりもそんな機会があるのであれば社員にその場を譲りたい」と、ただただ仕事を任せるだけでなく、学びの場も惜しまず提供していました。技術や知識よりも人柄と信頼で社員を引っ張る中本社長がとてもカッコよく映り、全部をまねることは難しいと感じましたが、私も少しでも見習っていこうと思いました。

(大阪北ブロック情報化・広報委員長 山野 高広)