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Osaka Doyu-Kai

vol.1

特集「今こそ、変化の先に踏み出そう!」

流されるように経営者になり、 同友会・経営指針にであい、経営を実践

Profile

大阪東ブロック/しろきた支部/2008年度入会

有限会社Eproject 代表取締役 NPO法人 オリオン 理事

古川 永里子

有限会社Eproject
所在地:大阪市中央区内本町1-2-11ウタカビル303/設立:2003年7月29日/年商:40,340,000円(2021年度)/社員数:3名/業務内容:Web制作(ホームページ制作・保守)、DTP制作(各種パンフレット、カタログ、チラシ企画・制作)、各種研修・企画・運営

NPO法人 オリオン
所在地:大阪市東成区東小橋1丁目7番3号

経営理念

1. 私たちは、ITの技術を通して情報発信し、人と人の想いを繋ぎ、笑顔あふれる社会を創ります 2. 私たちは、思いやりと優しさを持ち、共に輝く人生を送ります

起業のきっかけ

 2023年5月に20期目を迎えるEproject。設立の2年前、離婚をきっかけに3人の子どもを1人で育てていく状況になりました。何か仕事をしなければいけないとの思いとは裏腹に、当時30代女性には就ける仕事がなく厳しい状況でした。そんなある日、求人広告にあった「パソコンができる方優遇」の書き込みが目に留まりました。Windows95が発売された頃でニュースでもパソコンのことが取り上げられていました。それを見た古川さんはこれからパソコンの時代が来ると感じ、半年間独学でパソコンの勉強を始めました。

 初めはパソコン講師をしていましたが、だんだんとWeb制作の仕事にシフトしていき、2年目に有限会社Eprojectを設立しました。名前の由来は「永里子(Eriko)のプロジェクトでEproject」とシンプルな名前にしました。

 

同友会との出会い

起業はしましたが会社を経営しているという意識は薄く、ただ子どものためにお金を稼ぐことだけを考えて、売り上げを伸ばしていきました。そんな折、主力の顧客が破綻します。当時の売り上げは約1,000万円ほどでしたが、そのうちの約500万円の回収見込みが立たない状態になってしまいました。預金を切り崩し、所有している車などを売却などしましたが、まだ資金が足りない状況で、当時の国民生活金融公庫に融資の相談をします。そこで言われたのは、資金計画を作ること。しかし、そのような書類を作ったことはなく、適当な数字をいれて作成し提出します。融資を受けることはできたものの、担当者から言われたのは「もっと経営の勉強をしなさい」でした。

その頃に知り合いの生野・天王寺支部(当時)の会員から例会に誘われ、同友会と出会いました。グループ討論で「経営者は孤独である。だから仲間を作りましょう。3人の仲間を作りましょう」と言われたことを覚えています。古川さんは同友会に感銘を受けましたが、頭の中は、入会金が払えるのか、会費が払えるのかという不安でいっぱいでした。悩んだ末に「1年やってみて駄目だったら会社も廃業しよう」と決意し、同友会に入会しました。

 

経営指針確立成文化セミナーとの出会い

入会後も苦しい経営でしたが、同友会で学びながら、人を雇用することもできるようになりました。その時の社員から「この会社はどこに向かうのでしょうか?」と問われましたが、明確な答えを出すことはできませんでした。

そんな時に経営指針確立成文化セミナー(現経営指針確立・実践セミナー)に参加します。リーダーの「何のために経営をしていますか」の問いに、自分は子どもを育てるため、食べていくためということしか考えていなかったことに気づかされます。必死に考え抜き「経営者がいちばん幸せになることを考えなければいけない。夢がなければ誰もついてきてくれない」ということに思いいたりました。

 

経営指針書による同友会的経営のスタート

初めて作った経営指針書はたった1枚でした。そこに書いた行動計画は「仕事と家庭を両立できる会社」「女性が自分らしく輝く人生を送る」でした。当初から女性が中心の会社でしたが、毎日納期に間に合わせるために22時まで仕事をしていました。まずは、就業規則を作成し、産休・育休制度を策定しました。また、17時には仕事を終われるような体制に変えていきました。最初は生産性が落ち、売り上げが落ちるなどしましたが、今では17時終業が普通になりました。

 

コロナ禍がきっかけとなった働き方改革

3年前、コロナ禍となったときに、在宅勤務にトライします。既に女性社員が4名となり、それぞれ子育てや介護と仕事を両立しているメンバーばかりでした。全員に自宅で使用できるようパソコンを付与し、データをドロップボックスで共有できるようにし、ZoomやChatworkなどのデジタルツールを活用しました。しかし、いろいろな課題が発生します。メッセージだけではうまく伝わらず、怒っていると社員に勘違いされ泣かれたこともあったそうです。また、在宅の社員は1日中家にいることになり、誰とも話すことがなく、孤独感から、ストレスで気が狂いそうという意見も出てきました。

それまでもコミュニケーションをとるために月1回の食事会をしていましたが、思い切ったことをした方がいいと考え、USJの年間パスポートを社員に付与し、2カ月から3カ月に一度、午前中はUSJ内で会議をし、昼からはみんなで遊ぶ、そんな取り組みを行いました。そうしていると意見がたくさん出るようになり、現在の会社の課題、仕事のすすめ方などの改善案などが提案されるようになってきました。

 

Eprojectの働き方改革

トライ&エラーをしながら、働き方を変えていく取り組みをしています。これからの時代、ダブルワークや短時間での勤務などに柔軟に対応していくことが必要だと考えています。それに対応するためにも、短時間勤務であっても、在宅勤務であっても正社員として考えることにしているとのことです。そのような働き方改革を実践するには個々のスキルアップが必要だと考え、会社に携わってもらっているフリーランスの人たちとの交流も含めて、一緒に専門的な勉強会も行っているそうです。

 このような考え方になった一つのきっかけは、当時ナンバー2だった社員の退職でした。彼女は親の介護でどうしても仕事を続けられなくなり、当時は在宅での就業といった発想ができず仕方なく退職することになったのでした。古川さんは「どうすればみんなが自分らしく輝きながら働ける会社になるのか?」を絶えず考え続けています。

 

別事業への挑戦

 

5年前、古川さんが子どもの頃からお世話になっていた方から「経営している就労継続支援B型 NPO法人オリオンを手伝ってほしい」と言われ、書類作成など月1・2回の手伝いを始めました。その施設は、施設長とその娘さんが運営をしていました。

昨年、その社長の急死に伴い、施設を今後どうしていくかについて話し合いがもたれました。施設には30名の発達障害や精神障害の方が通所していて、施設長から「この子たちの働く場所をなくしたくない」という思いを聞いたとき、古川さんは、経営的な部分をサポートして、この施設を続けていくお手伝いをしようと決意しました。

 現在は、当初施設長だった方が理事長、その娘さんが施設長として施設の運営を担い、経営的な部分や行政などの対応を古川さんが理事として行い、3名で施設の発展に向けて頑張っています。もちろんここでもコミュニケーションを取るために、理事長や施設長、職員との食事会などを行っているそうです。

 古川さんは、Eprojectもオリオンも、皆が自分らしく働き、生きがいを持てる職場にすることが目標だそうです。

 

『人を生かす経営』からの学びと実践

労使関係の新しい次元への発展

中小企業においては、家庭的で人間のふれあいのある労使の関係(中略)積極的に労働条件を改善するとともに、意思疎通をはかることによって、相互の信頼感(中略)労使は、相互に独立した権利主体として認めあい、話し合い、交渉して労使問題を処理し、生産と企業と生活の防衛にあたっては、相互に理解しあって協力する新しい型の労使関係をつくるべきであると考えます。このような中小企業における労使の関係が成立する条件はいま、社会的に成熟しつつあります。

これまでの経営を振り返ってみて古川さんは『人を生かす経営』の上記の項を意識してきたと言います。「世の中はこれからどんどん激変し働き方は大きく変化していくと考えられます。そのことを踏まえて『人を生かす経営』を読むと、経営者としてやるべき課題が見えてくるのではないでしょうか」

(取材:山田、北川/文:山田/写真:佐藤)

 

同友会 私の楽しみ方

 

ここ数年、理事会を通して知り合った女性会員さんと、一泊二日でホテルにこもって経営指針書作成を行っています。会社の形態や規模、二つの事業所を経営しているなど共通点が多かったことに加え、年齢も同じということで、経営者仲間として自社の経営のことを相談しやすく、とても充実した二日間となっています。指針セミナー受講後にC’の会を続けている方は多いと思いますが、私の場合、一緒に受講したメンバーとはC’の会ができない状況でしたので、このような経営者仲間に出会えたことをとてもありがたく思っています。

 

 

「ともに考え実践する」を地道に続ける

我が社でも、同居家族のけがや病気などにより、通院付き添いや家庭の用事を担うといったことが、一時的に終わらず長く続く場合が出てきています。従業員やスタッフに長く活躍してもらえるよう、希望や状況に合わせて、働く時間帯や場所について柔軟に対応できるようにしていくことは、今後ますます必要だと感じていますし、そうありたいと考えています。

 古川さんのお話を聞きながら「誰もが活躍できる場を生み出す」には、ともに働く皆で一緒に考え、失敗しながらも実際に行っていくことが重要だと感じました。

 

(情報化・広報部 北川)